地滑り被災者移転地区における住宅建設へのコンクリートブロック提供と自治組織の強化
(スリランカ中部州ヌワラエリヤ県ワラパネ郡ニルダンダーヒンナ、エゴラカンダ、ウダマードゥラ移転地区)
現況
避難キャンプで暮らしていた多くの被災者は、政府が土地を用意した移転地へと移動を開始している。
避難キャンプから各移転地区への移住が概ね終了していが、政府は予算の問題上、土地と約5万円の見舞金の提供をするのみで、後は被災者が約50万円かかる住宅の建設を進めなくてはならない。支援対象者のほとんどは零細農民であるとともに、昨今の物価高騰(スリランカはアジアで一番の高インフレ率)により、自ら住宅建設を進めるのは難しい現状である。当該地域は、山間部であり雨が多く、気温の変化も激しいためテントや仮設住宅の老朽化も早く進んでいる。19 年度に提供した仮設住宅の板も継続的な降雨などにより今後老朽化が進むと思われる。
厳しい気象条件から人々の健康を守り、特に子どもやお年寄りが安心して生活するためにも、恒久住宅の早期建設が求められる。また、被災者に対して“被災者=かわいそうな人”として物資を与えるだけではなく、被災者の自治組織力を強化(エンパワーメント)し、自助・互助システムが広がり“自らができる事は自ら行う”すなわち自立型復興事業に向けた基盤作りを基本とした援助が求められる。
活動指針
活動概要
当プロジェクトは、2007年の地滑り発生から、当法人とグリーンムーブメント・オブ・スリランカが、災害発生当時から取り組んでいる災害復興支援の3年目に当たるプロジェクトである。昨年度は、ゆうちょボランティア貯金の助成の元、仮設住宅の建設を行った上で、今年度は、各移転地区で恒久住宅用の建材の提供、住民の自治組織の強化を行う。
(1)ブロック生産を開始する。。
(2)1家族に対して1つの部屋が完成できるブロック(約1000個)を提供する。
※スリランカにおいては、住宅建設時に一部のみを完成させ、ライフプランや収入に合わせ、増改築してゆくことは、広く一般的である。
(3)19年度事業で設立した復興委員会をさらに強化し、自立型復興事業が今後益々進むように係りを深めていく。具体的には、被災者が中心となり復興事業へのコンセンサスが形成されるように活動を促進し、それらの復興委員会で協議された内容をニュースレターの形で発表して被災者全体での情報の共有を促進する。これは、不公平な援助が行われることを防ぎ、被災者間の連帯感を促進する。また定期的にスタッフが移転地を訪れ、対話を促進し、避難生活において直面する問題を共有し相互啓発することにより、不安の軽減、責任感や地域への愛着、連帯感が生まれる。さらに、自ら解決していく重要性が理解・実行されることにより、持続的で成熟したコミュニティへと発展し、長期的視点からの権限付与への素地を作る。
受益者
雇用創出による10家族
ブロック提供によるニルダンダーヒンナ、エゴラカンダ、ウダマードゥラ移転地区の75家族255名
復興委員会の活性化によるワラパネ郡で地滑りに被災し、復興に向けて努力している249家族1422名
目的
恒久住宅建設の支援を行う事で、被災者自らが住宅建設及び地域の復興に取り組もうという意識が高揚する。そして、安心して居られる住空間を得る事により、公共な課題に対しても取り組む姿勢が生まれる。また、ブロック生産の技術を移転する事により、新たな雇用が創出され、被災者の生計向上にもつながる。さらに、復興委員会の組織強化を進めることなどを通し、今後の自立型復興事業への総合的かつ能動的な取り組みを促進する。
活動内容
実施期間
2009年4月>>2010年3月
活動計画
当プロジェクトは、2007年の地滑り発生から、当法人とグリーンムーブメント・オブ・スリランカが、災害発生当時から取り組んでいる災害復興支援の3年目に当たるプロジェクトである。昨年度は、ゆうちょボランティア貯金の助成の元、仮設住宅の建設を行った上で、今年度は、各移転地区で恒久住宅用の建材の提供、住民の自治組織の強化を行う。
(1)復興委員会と話し合いを行い、コンクリートブロック生産に向けた準備を開始すると共に、第一段階として被災者の中でも所得が低い2名を選出し、トレーニングを行う。そして、資材の搬入を行い、ブロック生産を開始する。順次スタッフを増やし、生産量を増して被災者へのブロック供給を開始する。また、被災者への無償提供分とは別に、通常の市場にもブロックを出す事により、被災者の継続的な収入にもつながる。余剰金は、基本的にはコンクリートブロックの原材料費に回されるが、一部は復興委員会が管理し、復興事業に必要な資金とする。また、被災者自らが、自らのブロックを生産することにより、良質なブロックを作るインセンティブが生まれる。
(2)1家族に対して1つの部屋が完成できるブロック(約1000個)を提供する。また、建設に必要なセメント等を提供し、住宅建設の開始を促す。スタッフ及び政府の建築士が定期的に巡回し、建設促進を進める。また、被災者が可能な限り自らの住宅建設に係るよう、大工以外の雇用はせず、被災者自身の参加を最大限引き出すようスタッフが調整を行う。被災者が作ったブロックを用いて、自らが建設に係る事により、彼らのオーナーシップが醸成される。またこれは、全ての住宅を“あげる”のではなく、「住宅建設の一部支援」・「オーナーシップを育てる」という過程を通して、被災者が援助漬けになることを防ぎ、自立型復興への後押しにつながる。なお、当該地域は山間部の寒い地域のためコンクリートブロックが住宅建設に適しているのと、材料である砂や砂利の入手が簡単であるという背景がある。
※スリランカにおいては、住宅建設時に一部のみを完成させ、ライフプランや収入に合わせ、増改築してゆくことは、広く一般的である。
(3)19年度事業で設立した復興委員会をさらに強化し、自立型復興事業が今後益々進むように係りを深めていく。具体的には、被災者が中心となり復興事業へのコンセンサスが形成されるように活動を促進し、それらの復興委員会で協議された内容をニュースレターの形で発表して被災者全体での情報の共有を促進する。これは、不公平な援助が行われることを防ぎ、被災者間の連帯感を促進する。また定期的にスタッフが移転地を訪れ、対話を促進し、避難生活において直面する問題を共有し相互啓発することにより、不安の軽減、責任感や地域への愛着、連帯感が生まれる。さらに、自ら解決していく重要性が理解・実行されることにより、持続的で成熟したコミュニティへと発展し、長期的視点からの権限付与への素地を作る。
カウンターパート
グリーンムーブメント・オブ・スリランカ(GMSL)
メンバー
石川 直人(現地コーディネーター)
伊藤俊介(国内調整業務)
キールティ・ガヤン(GMSLプロジェクトオフィサー)
予算
当プロジェクトは、独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構「国際ボランティア貯金」配分金より助成を受け実施されました
活動報告
進捗状況
終了
当該地では2010年度も引き続き活動が行われます
現況報告「各地滑り移転地区の現状報告」(09年7月2日)
6月末に、2日間にわたりアプカスが現地調査を行いました。地滑り被災者が現在暮らす各移転地区の現況(他の国際機関、NGO等の活動も掲載)、問題点は以下の通りです。
Dellowaththa移転地区.- 73 Families.(被災者世帯数)
1. Establishment of a community centre.
2. Providing water tanks. (DS)
3. Establishment of a permanent water supply system.
4. Home gardening programme.
5. Access roads have to be cut.
6. Soil conservation project.(To mitigate the possible risk of a landslide.)
7. Livelihood programme.
8. Micro finance programme. ( PALM Foundation)
9. Assistance for the construction of houses.
10. Supply electricity.
11. empower a community committee. ( PALM Foundation)
Egodakanda移転地区 ? 16 Families.
1. Access roads have to be cut.( IOM )
2. Assistance for the construction of houses. (APCAS)
3. Establishment of a permanent water supply system.( IOM )
4. Livelihood programme.( IOM )
5. Microfinance project.
6. Home gardening programme.
7. Soil conservation programme.
8. Supply electricity.
9. Assistance to build corporation with villages(Host community).
Nildandahinna resettlement移転地区 ? 16 Families.
1. Access roads have to be cut.( IOM )
2. Assistance for the construction of houses. (APCAS)
3. Establishment of a permanent water supply system.( IOM )
4. Livelihood programme.( IOM )
5. Microfinance project.
6. Home gardening programme.
7. Soil conservation programme.
8. Supply electricity.
9. Support for education.
10. Development of the children club. (APCAS)
11. Community empowerment.
Dadayampola移転地区 ? 28 Families.
1. Establishment of a permanent water supply system.( IOM )
2. Access roads have to be cut.( IOM )
3. Assistance for the construction of houses. (APCAS)
4. Assistance for their cultivation.
5. Establishment of a community centre.
6. Helping to overcome difficulties in public service.
7. Support for education.
8. Community empowerment.
9. Microfinance project.
10. Livelihood programme.( IOM )
11. Supply electricity.
Rockland移転地区 ? 73 Families.
1. Establishment of a permanent water supply system.( IOM )
2. Access roads have to be cut.( IOM )
3. Assistance for the construction of houses.( PALM Foundation)
4. Assistance for their cultivation.
5. Establishment of a community centre.
6. Helping to overcome difficulties in public service.
7. Support for education.
8. Community empowerment. ( PALM Foundation)
9. Microfinance project. ( PALM Foundation)
10. Livelihood programme.( IOM )
11. Supply electricity.
訪問者レポート「ワラパネの地滑り被災移転地を訪れて」(09年10月)
前田昌弘(京都大学大学院工学研究科)
2009年10月中旬、アプカス様によるワラパネの地滑り被災地復興支援事業の調査に同行させて頂きました。
ワラパネの移転地を訪れて、まず居住環境の実態に驚きました。地滑り災害の発生から既に3年近くが経ちますが、被災者は移転地にようやく移住し生活を再開し始めたばかりです。しかも大半の移転地では水道・電気・トイレなどの基本的な生活サービスが無く、いまだに仮設住宅や避難テントに住む被災者も少なくありません。私はこれまでスリランカ南部のマータラ県で2004年インド洋大津波後の復興住宅の調査を行ってきました。短期間のうちに完成した津波被災地の移転地と比べると、地滑り被災地の移転地は進捗が遅く居住環境も劣悪であるという印象を受けました。
ただ、津波被災地と地滑り被災地では、そもそも支援環境が大きく異なります。津波被災地は被害状況が海外のニュースでも大きく報じられ、大量の支援が寄せられました。一方、地滑り被災地は、国外はおろかスリランカ国内でも認知度が低く、十分な支援があるとは言えません。
では、津波被災地のほうが地滑り被災地よりも望ましい復興が行われているかというと、そうとも言い切れません。
確かに、地滑り被災地の移転地は現段階では居住環境として不十分かもしれません。しかし地滑り被災地では地元住民、NGO、援助機関などの努力により、徐々に支援が集まりつつあるようです。最初は何もなかった土地に徐々に水道、電気、トイレ、住宅建材などが様々な人々の協力により供給されつつあります。住民は支援を受けながら自力建設を行います。自らの責任と能力で住宅再建を行う人々の顔は生活再建の実感に溢れているように見えました。それはスピードを重視するあまり住民の意思をしばしば置き去りにしてきた津波被災地の移転地ではなかなか見られなかった光景です。
今回の調査は私にとって、生活再建の実感をともなう復興の重要性を改めて確認する機会となりました。
(左写真)ワラパネの地滑り被災移転地の景観:道路、水道、電気、トイレ、住宅等が徐々に建設されていく。住宅は住民の自力建設による。
(右写真)マータラの津波被災移転地の景観:移転地の設備は全て行政とドナーによって短期間で建設され、住民に引き渡された。
実施レポート
当初の目標に対する達成度
①75世帯に対し、ブロック及び必要な資材の提供を通して、安全な住空間(1つの部屋)を提供する。
>>平成21年10月30日に、75家族分の安全な住空間(1つの部屋)が完成した。
②ブロック生産により雇用創出され、生計向上につながる。
>>ブロック生産を通して、10名の雇用が創出され、貧困層の収入が向上した。
③復興委員会の活動が活性化し、公平・公正な自立型復興事業が進む。
>>復興委員会(住民に加え、郡事務次官、福祉担当官、村行政官、公衆衛生官も参加)が定期的に行われ、郡事務次官等の行政関係者や他のNGOなどの支援団体とも連携が強化されて、結果的に住宅建設以外にも、トイレ建設、排水溝の設置による2次災害の防止事業等が行われた。
事業終了後の住民からのサンクスレター
今後に向けて
・ブロック生産のトレーニングを受けたが、材料を混ぜる割合等は状況によって大きく変わり、それに慣れるまでに時間がかかった。そのため、予定よりもブロック生産のスピードが少し遅くなった。
・当法人が支援を行っていない地区からも支援の要請を受けたが、事業を拡大するのは難しいため、断らざるを得なかった。この事により、地域内での支援のバランスが崩れた危険性がある。他のNGOと事前の話し合いで、支援地区の振分けを行ったのだが、実際にはいくつかのNGOが約束したのにもかかわらず撤退してしまった。
担当者レポート
本事業によって、被災者は、安全な住空間を確保する事ができました。今回の支援では、“家”の完成を目指したわけではなかったため、“家の一部である部屋”が完成したのですが、今までの仮設住宅に比べると格段に住環境が改善されました。今までは、雨風が強い日などは雨漏りや住宅の倒壊の危険性があったのですが、ブロックを使用した住居の建設によりそれらの心配がなくなりました。安全な居住空間が確保されたことにより、精神的な安らぎも確保され、将来への希望を持てるようになったとの声を多く聞きました。特に、小さな子どもがいる家庭では、この村で我が子が将来も暮らせるのか正直疑問に思っていたけど、子どもたちのためにも「まだ頑張るぞ!」という気持になったという声を聞いた時はうれしさがこみ上げてきました。
ビデオレポート
・2009年12下旬:
日本の皆様にビデオレポートを作成しました。(以下のリンクをクリックすると別ウィンドウ・タブで開きます)
地滑り被災地ビデオレポート(担当:石川)